ウィリアム・バトラー・イェイツ作「円環(ガイヤー)」

円環也、円環也、神さびし石の御顔よ照覧あれ、
ながき思索を経たる事柄もはや思索に得耐えざり、
美は美のゆゑに、価値はこれ価値のゆゑにぞ滅びゆき、
いにしへの輪郭といふ輪郭は塗りつぶされたるを。

没条理的なる血のたばしりが大地を汚せば、
哲人エムペドクレスは一切有を散擲し、
勇士ヘクトール身まかりて、都城トロイアに烽火のあり、
観ずるわれら、悲劇的歓喜の内にただ哄ふのみ。


事かはある、いまや鈍なる夢魘頭上を跨拠し、
神経過敏の肉体が血と泥に汚さるとても。
事かはある、嘆くをやめよ、泪こぼす勿れ、
より偉なる、より優渥なる時代は過ぎて帰らざれば、
いにしへの墳墓なる像や化粧函の彩色美に
一たび嘆息せしわれも、またとはせざれば、
事かはある、洞窟の奥より声音響きいづ、
その知るところはただ一語、「歓喜あれ」とのみ。


行状も成果も粗劣になりまさり、魂もまた粗劣なれ、
事かはある、石の御顔に好情を抱かるる者ら、
馬を愛するの徒、また婦女子を愛するの徒は、
あるひは毀たれし大理石の霊廟より、
あるひは鼬と梟とのあはひなる暗黒より、
あるひはいづれにまれ、豊饒なる黒洞々の空無より、
工人、貴人、聖人を発掘すべければ、またも一切有は、
かの非時代的なる円環上をめぐり巡らふ次第也。



THE GYRES by William Butler Yeats
http://www.csun.edu/~hceng029/yeats/yeatspoems/TheGyres

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