ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第十三番

へすぺりあ


なみ聳ゆる尖塔や烟筒 け怠きこの星球より
今しも飛びたたむかとみゆるその彼方に炎々たる
冬の落日はひらく也 ある忘られしひと年の
神さびし荘厳と聖き願望とへの大門の数々を
期待にたがはぬ諸々の驚異火と燃えさかり
冒険を孕み はた畏怖に染まらざるにもあらず
スフィンクスら居ならぶ障碍なき道はつづく也
遙けき竪琴のしらべ塁壁や角樓を震はするかたへ


そは即ち 美といふ言葉が花々を指ししめす国
そこに 迷ひ子なる記憶みなおのが出所をみいで
そこに 「時劫」の大河はみづからの進路を始め
星あかりの奔流として無辺虚空をくだりゆく也
夢見にこそわれら迫りうれ――古伝のくり返して曰く
人類の足跡 絶えてその八衢を汚したることなし と


H.P. Lovecraft "Fungi from Yuggoth"
sonnet XIII. "Hesperia"

http://www.psy-q.ch/lovecraft/html/fungi.htm

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