2010-01-01から1年間の記事一覧

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第二十番・第二十二番

夜 鬼 いかんの墓窟より爬《は》ひづるとこそえ識らねど 夜夜《よるよる》にわれは見るよ その護謨《ゴム》めける奴ばらを 黒色にして角のあり 痩躯にうすき膜質の翅《はね》 ふた叉の邪《まが》し倒棘《さかとげ》生えたる尾ある奴ばらを 奴ばらは陰風《き…

悪夢の這いよる夜

(一九二〇年十二月十四日附ラインハート・クライナー宛ラヴクラフト書翰より抜萃。アーカム・ハウス刊『ラヴクラフト書翰選集第一巻』・書翰番号九十四) 「ニャルラトホテプ」は悪夢だ――ぼく自身が実際にみた幻夢で、はじめの一節は完全に目が醒めてしまう…

H・P・ラヴクラフト&R・H・バーロウ作「新世紀前夜の決戦」

(訳者註・あらかじめお断りしておきますが、これは実験的な「ネタ翻訳」です。余計な小細工を含まない「原文に即した訳文」をお求めのむきは、国書刊行会版『定本ラヴクラフト全集7―I』所収の福岡洋一氏訳を読まれることを強く推奨します。) (おもに作家…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「月ぞ夢魔」

わたくしは月を忌む――月をおそれる――おりふし月照はある種の見なれためでたい場景を、見なれぬ気うといものへと変えてしまうことのあるがゆえに。 時しも妖かしい夏のことであった、わたくしのさ迷う古さびた苑生に月光が降りそそいだのは、眠りをさそう群芳…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「忘却ヨリ」

最後の日びが迫ってきて、生存に纏わるもろもろのいとわしい瑣事にこころを狂気へと駆りたてられること、小さな水滴をたえ間なく、肉体上の一点に集中して落としつづけられるあの責苦さながらになりはじめると、わたしが愛したのはきらきらしくも後ろむきな…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「イビッド」

「イビッドがその有名な『詩人列伝』で言っているように」――ある学生の作文より イビッド Ibid をかの『詩人列伝 Lives of the Poets 』の著者と考える錯誤は、これに逢着することあまりに屡々にして、ひとかどの教養を積んだ、とうそぶく人びとの間にも多々…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「峡の記憶」

ニスの峡を、咒われて疾みあおざめた繊月がおぼろに照らす、その脆げなふたつの角でウパス大樹の致死毒の葉むらをつらぬき、光の小みちを通しながら。しかして峡のふかみ、光も射しとどかないあたりには、視らるべき定めならざるかたちのものどもが蠢く。蔓…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「アウトサイダー」 (全)

その晩、男爵さまは夢見がたいそうお悪くて、 招待なさった武人たちがひとり残らずみな、 妖婆や、悪鬼や、大きなうじ虫に変身するという凶夢に、 ながい夜を魘されどおしでいらしたのです。 ――キーツ 不幸じゃない? こどもの頃をいくらふり返ってみても、…