ラヴクラフト

玖羽(Kuhane)さん訳「伊比紱(Ibid)」の件

玖羽さん訳「伊比紱(Ibid)」(2011-12-12 01:04:12)→ http://t.co/wlrMCn1Y sbiacoさん訳「イビッド」(2010-09-21)→ http://t.co/x7nFSlKe SerpentiNaga訳「イビッド」(2010-09-21 20:50)→ http://t.co/ihufPPPm "Ibid" by H. P. Lovecraft → http://t.…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第五番

帰 郷 邪霊《ダイモーン》の曰く われを家郷へつれ行くと蒼じろく陰影《かげ》多《さは》なる地 わが記憶になかば残る地へ憶ひおこせば 階梯と露台とを備へし高みは天風の梳《くしけづ》る大理石《なめいし》の欄杆に囲まれ将《は》たや 幾《いく》哩《マイ…

アナベル・リー再現

ナシカナ アルバート・フレデリック・ウィリー(H・P・ラヴクラフト&アルフレッド・ギャルピン) 蒼白きザイスの庭院《には》にありし日のこと 屍衣《しえ》のごと狭霧まとへるザイスの庭院よ ま皓《しろ》なるネファロット樹《じゆ》の葩《はな》を披きて …

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作「洞窟のなかの獣」

怖ろしい結論が次第々々にしりぞけ難いものと化して、混乱したかたくなな頭脳で考えても、いまやひとつの確定的事実であることに懍然となった。道を失ってしまったのだ、完璧に、絶望的にわたしは、長大にして迷宮のごときマンモス洞窟の奥処でただしい道を…

F・B・ロング未収録詩集『闇なす潮流』より

インスマス再訪 フランク・ベルナップ・ロング ひょっとすると逢えるような 気がしてはいた かれに 黒い波止場が 闇なす潮流を睨みおろし いびつに歪んだ家なみが 延々どこまでもうち続くこの町で 謐かなこと 淀んだ池のなか 水草をつつく鯉とひとしく 歩き…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第四番

見憶え めぐり来ぬ 再びかの日 当時われ幼な児にして まさに視き――唯ひとたび――古樫ならぶその窪地 狂気に蝕まれたる姿こそめかしきものどもを かき抱き息づましむる 地の蒙霧ゆゑに灰色なりき さながらに同じかりき――莽々と草のはびこる 祭壇に彫りきざまれ…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第六番

古燈具 われらがその燈具を見いでしは 懸崖の洞穴 内にテーベ神官のひとりだも読みえぬしるし刻まれ 慄然たるヒエログリフもて警告をこそ発せりしか 山洞より 地上に生きとし生ける全被造物へと ほか何もあらざりき――唯 その真鍮の器ひとつのみ 好奇そそる燈…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第十一番

深井戸 農夫セス・アトウッド 齢八十をすぎて試みき 家の戸口にほど近き深井の底を究めむとて 若人エブひとりを助手に 潜りに潜りゆくことを われら笑ひ 翁のただちに正気づかむを希ひしに 豈はからむや エブさへも狂気と化して戻りぬれば ひとびとこれを郡…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第十三番

へすぺりあ なみ聳ゆる尖塔や烟筒 け怠きこの星球より 今しも飛びたたむかとみゆるその彼方に炎々たる 冬の落日はひらく也 ある忘られしひと年の 神さびし荘厳と聖き願望とへの大門の数々を 期待にたがはぬ諸々の驚異火と燃えさかり 冒険を孕み はた畏怖に染…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第三十二番

疎隔 男ありき その肉体は不動堅固にして 暁ごと 違はずつねの処にあるを自ら確かむるなれど その幽体は愛したり 夜ごと夜ごとに離脱して 超常の諸世界や諸深淵をば翔けめぐらふを ヤディス星を視てきたるも なほ理性を保ちつつ グーリック帯よりつつがなく…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第三十一番

棲息者 バビロン未だあたらしき時 そは既に年ふりたりき たれか識る 塚のしたなるその眠りの幾久しさ 終に われらが円匙の掘りあつるところとはなり 再びすがた顕はしたる花崗岩の石ぐみ 鋪道幅ひろくして 基なる壁もまたおぎろなく 崩れつつある石床 毀れや…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第二十七番

上古の燈塔 冷けく朧ろにて肉眼に捉へがたき星々のした 寒風吹きざらしの岩峰 荒涼とつらなり聳ゆるレンより 薄暮どき 唯ひとすじの光線の投ぜらるるあり 青く杳けきその光条に哀訴祈願なす牧羊の徒 口ぐちに(さも訪れてきたるかのごと)噂すらく 光源は石…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第二十五番

聖蝦蟇寺 「こころせよ 聖蝦蟇寺の破れ鐘のこゑ!」 その叫び 幾星霜のふるき夢眠れる河の南 冥々として捉へがたき紆余曲折の迷宮をなす 乱れ小路に飛びこみし われの耳にひびきぬ 叫びしは 彎腰襤褸の胡散にこそめく老体なれど 蹣跚きつもよぎり去ること閃…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第二十三番

蜃気楼 識らず それの経て実在したるものかは―― 糢糊として時のながれを漂へる失はれし世界―― しかも視ること屡々なり 紫いろに霧らふそれを とある漠たる夢の背びらにかぎろふそれを 奇しくならび立つ塔 妖しくささら波する河川 驚異にみてる迷宮 かがやき…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第十八番

インの庭園 苔むせる堂塔ならび立つうちに聳ゆる 天穹へ達せむばかりの古さびし石の塁壁 けだしその彼方 花咲きほこり 鳥や蝶や蜜蜂はばたく 段なすつくりの庭園の隠れてあらむ と惟はれき 遊歩道も通へるならむ 神殿の庇のかげ映す 水ぬくき蓮池ごとに橋も…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第二十番・第二十二番

夜 鬼 いかんの墓窟より爬《は》ひづるとこそえ識らねど 夜夜《よるよる》にわれは見るよ その護謨《ゴム》めける奴ばらを 黒色にして角のあり 痩躯にうすき膜質の翅《はね》 ふた叉の邪《まが》し倒棘《さかとげ》生えたる尾ある奴ばらを 奴ばらは陰風《き…

悪夢の這いよる夜

(一九二〇年十二月十四日附ラインハート・クライナー宛ラヴクラフト書翰より抜萃。アーカム・ハウス刊『ラヴクラフト書翰選集第一巻』・書翰番号九十四) 「ニャルラトホテプ」は悪夢だ――ぼく自身が実際にみた幻夢で、はじめの一節は完全に目が醒めてしまう…

H・P・ラヴクラフト&R・H・バーロウ作「新世紀前夜の決戦」

(訳者註・あらかじめお断りしておきますが、これは実験的な「ネタ翻訳」です。余計な小細工を含まない「原文に即した訳文」をお求めのむきは、国書刊行会版『定本ラヴクラフト全集7―I』所収の福岡洋一氏訳を読まれることを強く推奨します。) (おもに作家…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「月ぞ夢魔」

わたくしは月を忌む――月をおそれる――おりふし月照はある種の見なれためでたい場景を、見なれぬ気うといものへと変えてしまうことのあるがゆえに。 時しも妖かしい夏のことであった、わたくしのさ迷う古さびた苑生に月光が降りそそいだのは、眠りをさそう群芳…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「忘却ヨリ」

最後の日びが迫ってきて、生存に纏わるもろもろのいとわしい瑣事にこころを狂気へと駆りたてられること、小さな水滴をたえ間なく、肉体上の一点に集中して落としつづけられるあの責苦さながらになりはじめると、わたしが愛したのはきらきらしくも後ろむきな…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「イビッド」

「イビッドがその有名な『詩人列伝』で言っているように」――ある学生の作文より イビッド Ibid をかの『詩人列伝 Lives of the Poets 』の著者と考える錯誤は、これに逢着することあまりに屡々にして、ひとかどの教養を積んだ、とうそぶく人びとの間にも多々…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「峡の記憶」

ニスの峡を、咒われて疾みあおざめた繊月がおぼろに照らす、その脆げなふたつの角でウパス大樹の致死毒の葉むらをつらぬき、光の小みちを通しながら。しかして峡のふかみ、光も射しとどかないあたりには、視らるべき定めならざるかたちのものどもが蠢く。蔓…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「アウトサイダー」 (全)

その晩、男爵さまは夢見がたいそうお悪くて、 招待なさった武人たちがひとり残らずみな、 妖婆や、悪鬼や、大きなうじ虫に変身するという凶夢に、 ながい夜を魘されどおしでいらしたのです。 ――キーツ 不幸じゃない? こどもの頃をいくらふり返ってみても、…

クリスマス期間につき懸案事項を先送りして特別更新しております。

ウンダ――海の花妻 ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 謹みつつ、モーリス・ウィンター・モオ大人にみ許しを得て*1ささげ奉るもの也。 昏暗にして曠蕪にして荒唐無稽、窈瞑たる揚抑抑格の渋晦にして重疾なる十六聯詩による、 濛朧として罔殆なる妄迷の譫…

ファーンズワース・ライト編集長お気に入りの一篇

祝祭 ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 地には雪あり 谿間に冷気あり 荒原のうへ 如法暗夜の幽闇は 黒ぐろとこそわだかまれ 丘の頂きに炬火ほの見ゆるは 張られたるめり 不浄にして古きうたげの 雲間に死あり 夜陰におそれあり 森のなか 黴の被ひて白き…

H.P. Lovecraft "Fungi from Yuggoth" sonnet XIX

鐘鐸 ハワード・フィリップス・ラヴクラフト 年年にわれ聞きぬ 黒《かぐろ》き午夜の風のかすかに 遠処《をち》よりつたへ来る鐘鐸のふかく沈めるその音韻《ひびき》 从前《かつて》看見《みと》めえし尖塔のいづれより発《おこ》るにもあらず ただ 一《と》…

『ユゴスよりの黴』プロローグ三篇

一、魔書 それは暗くて埃ぶかく、埠頭のそばの 古い小道のいくすじも絡みあうなかに見失いがちで、 海のうち揚げた胡乱なものらの異臭が届き、 西風の煽りに霧の妖しくうずまく場所にあった。 霧にけぶり、霜に曇った菱形の小窓硝子ごしに、 見えたものはた…

翻訳における文体選択の悩み

ラヴクラフト『文学における超自然の恐怖』(大瀧啓裕訳・学研)の訳者解題より。 「この『ユゴスの黴』において注目すべきは、ラヴクラフトの小説、ことに後期の創造神話の佶屈した文章とは截然と異なる、実に簡明な文章で書きつづられていることである。ソ…

ハワード・フィリップス・ラヴクラフト「ウルタールの猫」

ウルタール、とはスカイ河を越えたところにある村の名前、そこでは何ぴとも猫を殺すこと一匹とて罷りならず、と言われるのであるが、炉辺に坐(ましま)し喉ころろかし給う猫君(ねこぎみ)をつくづく見たてまつればこそ、小生もげにさもありなんと首肯(う…

"Fungi from Yuggoth" sonnet XXI

ニャルラトホテプ ハワード・フィリップス・ラヴクラフト しかして 終に 玄奥なる埃及《エジプト》よりはきたりぬ 農工民《フエラーヒン》の稽首《ぬかづ》き拝する尋常ならざる黝《くろ》き存在《もの》 寂黙痩形《じやくもくそうぎやう》 さてもまた謎めく…