ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第四番

見憶え


めぐり来ぬ 再びかの日 当時われ幼な児にして
まさに視き――唯ひとたび――古樫ならぶその窪地
狂気に蝕まれたる姿こそめかしきものどもを
かき抱き息づましむる 地の蒙霧ゆゑに灰色なりき
さながらに同じかりき――莽々と草のはびこる
祭壇に彫りきざまれたるは召喚なさむがための印
うづ高くなみ聳ゆる不浄の塔より炊きあぐる
千筋の香煙もて 久遠のむかし祀られしかの「無名者」を


われは視き 苔あと湿る磐上に四肢のばせる肉体
而して悟りぬ それなる宴の参加者どもは人間ならず
悟りぬらく この奇怪なる灰色の世界わがものならず
星みてる虚空の彼方のユゴスがものと――時しもよ
磐上の肉体 われにむかひて断末魔の叫びを発し
漸くにこそ悟りぬれ 唉 そはおのれ自身なりけり!


H.P. Lovecraft "Fungi from Yuggoth"
sonnet IV. "Recognition"


http://www.psy-q.ch/lovecraft/html/fungi.htm

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