ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第六番

古燈具


われらがその燈具を見いでしは 懸崖の洞穴
内にテーベ神官のひとりだも読みえぬしるし刻まれ
慄然たるヒエログリフもて警告をこそ発せりしか
山洞より 地上に生きとし生ける全被造物へと
ほか何もあらざりき――唯 その真鍮の器ひとつのみ
好奇そそる燈油の残滓をば底にとどめつつ
表におぼめかしく連ねたり 卍字つなぎの文様を
未知なる罪の暗示めけるくさぐさの象徴を


世紀を経ること四十に及びし恐怖もものかは
持ち去りきたるこのささやかなる戦利品を われら
闇せまる天幕ぬちにて精査するにあたり
燐寸ひと擦り 底に残れる古代の油ためさむとしき
燃えあがる油――哦……されど視えたり 巨怪なるかたちの数々
その狂ほしき一閃に 恐々然のわれらが命灼けつきぬ


H.P. Lovecraft "Fungi from Yuggoth"
sonnet VI. "The Lamp "


http://www.psy-q.ch/lovecraft/html/fungi.htm

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