ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第十一番

深井戸


農夫セス・アトウッド 齢八十をすぎて試みき
家の戸口にほど近き深井の底を究めむとて
若人エブひとりを助手に 潜りに潜りゆくことを
われら笑ひ 翁のただちに正気づかむを希ひしに
豈はからむや エブさへも狂気と化して戻りぬれば
ひとびとこれを郡営の療養所へと送りけりとぞ
翁 井戸口を煉瓦もて膠のごとく密にかため
しかして切りつ 動脈を 瘤たくましきおのが左腕の


葬儀ののち 果たすべき義務とわれらの覚えしは
その井戸まで赴きて煉瓦をとり除きさること
さはれ窺へば 大暗穴の曰はむかたなき深みへと
下りゆく鉄の握りの点々と設けられたるのみ
しかるにわれら なほ元のごと煉瓦に口を塞ぎなほしつ――
いかに紐ながき測深錘も底まで達しえざりしゆゑに


H.P. Lovecraft "Fungi from Yuggoth"
sonnet XI. "The Well"


http://www.psy-q.ch/lovecraft/html/fungi.htm

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