ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第三十一番

棲息者


バビロン未だあたらしき時 そは既に年ふりたりき 
たれか識る 塚のしたなるその眠りの幾久しさ
終に われらが円匙の掘りあつるところとはなり
再びすがた顕はしたる花崗岩の石ぐみ
鋪道幅ひろくして 基なる壁もまたおぎろなく
崩れつつある石床 毀れやまざる立像は 
世人の回憶しうるいかなる時代よりも過去の
異類異種をば彫りあらはせる幻想的なるものなりき


さてしも われらのみとめたる石のくだり階段は
彫りぬかれし白雲石の息ぐるしき門口をへて
旧き世のしるしと原初の秘めごととの威圧なす
なにやらむ 聖域のごとき常闇へとつづきてありき
土のけ下降せむ――として一転 さき争ひに退却のわれら
蓋し聴きたればなれ づしめく跫音の昇りくるをこそ


H.P. Lovecraft "Fungi from Yuggoth"
sonnet XXXI. "The Dweller"


http://www.psy-q.ch/lovecraft/html/fungi.htm

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