ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第二十七番

上古の燈塔


冷けく朧ろにて肉眼に捉へがたき星々のした
寒風吹きざらしの岩峰 荒涼とつらなり聳ゆるレンより
薄暮どき 唯ひとすじの光線の投ぜらるるあり
青く杳けきその光条に哀訴祈願なす牧羊の徒
口ぐちに(さも訪れてきたるかのごと)噂すらく
光源は石づくりなる塔の燈室にして そのうちに
「旧き世のもの」の最後のひとりが単身棲まひ
太鼓打つひびきもて 「混沌」に語りかくるなり と


噂すらく そのものの被れる黄なる絹覆面は
異様なる皺の寄りぐあひより あきらかに
世の人さびし面輪を隠せるにはあらじと雖ど
問ひあへず 覆面を裏ゆ盛りあげたる顔の造作の如何
人類青年期のはじめ 件の光輝の探索者あまたなりしも
さて何を見いでたるか 知らるることはなかる可し ゆめ 


H.P. Lovecraft "Fungi from Yuggoth"
sonnet XXVII. "The Elder Pharos"


http://www.psy-q.ch/lovecraft/html/fungi.htm

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