ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第二十五番

聖蝦蟇寺


「こころせよ 聖蝦蟇寺の破れ鐘のこゑ!」
その叫び 幾星霜のふるき夢眠れる河の南
冥々として捉へがたき紆余曲折の迷宮をなす
乱れ小路に飛びこみし われの耳にひびきぬ
叫びしは 彎腰襤褸の胡散にこそめく老体なれど
蹣跚きつもよぎり去ること閃電のごとかりしかば
構はず 夜やみを穿つごとさきへ進むわれ
より多くの屋根なみが凶々と鋸歯めくかた指して


いかなる案内書も告げず ここに何物潜めるかを
されど今 また別なる老爺あらはれて金切るさけび
「こころせよ 聖蝦蟇寺の破れ鐘のこゑ!」
われ立ちまどへば 第三の老髯 おそれに喉枯らし
「こころせよ 聖蝦蟇寺の破れ鐘のこゑ!」
仰天遁走のわれ――ゆくて俄かに彷彿たる黒き尖塔


H.P. Lovecraft "Fungi from Yuggoth"
sonnet XXV. "St. Toad’s"


http://www.psy-q.ch/lovecraft/html/fungi.htm

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