ハワード・フィリップス・ラヴクラフト作『ユゴスよりの黴』 ソネット第十八番

インの庭園


苔むせる堂塔ならび立つうちに聳ゆる
天穹へ達せむばかりの古さびし石の塁壁
けだしその彼方 花咲きほこり 鳥や蝶や蜜蜂はばたく
段なすつくりの庭園の隠れてあらむ と惟はれき
遊歩道も通へるならむ 神殿の庇のかげ映す
水ぬくき蓮池ごとに橋も架れるならむ
さては 蒼鷺の舞ふ淡紅色の空を背にして
桜樹もか弱き枝葉をゆり合ふならむ と惟はれき


惟はれき その彼方にしてあらざるもの無けむ と
けだし 昔日の夢の門扉の開放は 撓み枝ゆ垂れし
蔓くさの緑にかげる睡たき水流うね走るところ
その石燈てらす迷宮へこそ 導くものならざりしや?
われは急ぎつ――されど 冷たくつき立つ巨壁を目にして
得悟りにけり 如何なる門とてはや無きことを


H.P. Lovecraft "Fungi from Yuggoth"
sonnet XVIII. "The Gerdens of Yin"


http://www.psy-q.ch/lovecraft/html/fungi.htm

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