『悪の華』中、「憂鬱と理想」より

 亡霊帰来         シャルル・ボードレール


獅子のの流浪天使のごとくに
かへり来たらむ、おん身が閨所ねやへ、
もなくかたちも分明ふんみやうならず、
かげの滑り寄るがごとくに。


しかして与へむ、かぐろのきみよ、
月光つきさながらに冷たきくちづけ、
はた究めてむ、玻璃はりの湖水の
にたはむるる蛇なす愛撫。


恥に蒼める朝をむかへて、
おん身は視む、われすでに消え失せ、
夜まで冷たきままのそのあと


おん身が生と若さを、誠実まめびと、
優しさにより占めむとあらば、
われは領ぜむ、恐怖によりて!


Charles-Pierre Baudelaire - Le Revenant
(Aleister Crowleyの英訳に拠る)