アッティスの想い出

                サッフォー


一語ひとことも あのは 寄せてくれなくなってしまった


ほんとうにもう わたしは死んでしまいたい。
わかれのきわに、あのがしとど泣きぬれて


告げたことばは、「辛いけれど、わたくしたち
さよならしなくてはなりませんのよ、サッフォー。
心ではわたくし 去りがたくおもっていますのに」


答えてわたしは、「お行きなさい、倖せになるのよ。
ただこのことは覚えておいて(よくわかっている筈)、
あなたに愛で繫がれたまま 置きざりとなる人々が、いるわ。


「もしわたしを忘れるというなら、想いおこして、
みんなで 染女神アプロデイーターにくさぐさの供物を奉ったこと、
めいめいが あらゆるうつくしいものを頒ちあったこと、


「すみれ草の花冠はなかんむりもあったわ、ばらのつぼみがふち飾り、
あなたのみずみずしいくびをめぐって わたしは
ひめういきょうやクロッカスを絡ませてあげた、


つむりには没薬ミルラを注いであげた、こういったことすべて、
それから そばにもっとも居てほしかった者とともに
やわらかなしとねで やすらっていた処女おとめたちのことを。


合唱隊コロスに わたしたちの声を欠いて
うたのしらべがととのわないかぎり、
春は どの森にも 花がひらかなかったもの……」


(Mary Barnardの英訳に拠る)