先師追懐

 ステフアーヌ・マラルメを偲びて    フランシス・ヴィエレ=グリファン


誰びとか呼びかけて、「師よ善哉ぜんざい

ひと日の黎明いなのめ地にきざし、

黎明ここにまた相不変あひかはらずの仄じろさ、
師よ、われ窓を開け放てば、

ひむがしの斜面なぞへを朝はぢきたり、

ひと日の誕生にこそあれ!」とまをせば、蓋し

聞こえたまはずや、おん言葉――「われは夢む」と。


誰びとか呼びかけて、「師よ、われら此処にあり、

こころも脳も強健なること

おん家の扉のまへにたたずみし昨夜ゆふべのごとく、

笑ひつつ参じ、ここに待てり、

おん微笑みとおん手の堅き握りを」とまをせば、

返りくるよ、いらへの言葉――「師はまかりぬ」と。


わが庭床にはどこに咲けりし花々、

書冊のページのごとき花々、

捧げまゐらせむ、花々を。そも何故の?

ここに集へるは、われらの内のごく僅か、

低やかなる歌声は渦まき散ず、

この花々の散じてうづ巻くとひとしく――

しかしてここに覚ゆるは、

ながらへて発語することの恥といきどほろしさ、

なんの言葉ぞ――おん墓を前にしてなほ。


In Memoriam--Stephane Mallarme by Francis Viele-Griffin
(Jethro Bithell の英訳
http://www.blackcatpoems.com/v/in_memoriam_stephane_mallarme.html および、
Joseph T.Shipley の英訳に拠る)