一友 ライオネル・ジョンスン
その魂、ヴェルギリウスの雪白を
さながら具せり――躬らをよく制禦なし、
優にして、はた恬謐ぞ喜びなる
上代の聖さび地上を歩むもうべなれや。
彼に見ゆればわれ知らず心地のどまり、
あひ共に時を過ぐせば、一切の
憂苦は忘ぜられ果てて、さて別るれば、
慰めの太陽沈みぬるよとばかり。
さはいへ孤り居のをりにわれ悟る也、
かれに事へかつまた謝するに最上のすべ――
「おん神よ、かれを困厄めたまへよかし、
悲嗟を経てこそ唯一の安息へむかひ得べければ」
A Friend by Lionel Johnson
闇天使 ライオネル・ジョンスン
闇の天使よ、情欲の疼きのままに
世界より悔悟を逐ひやらふ者よ、
害みごころの天使よなれ、加ふるか尚、
わが魂にかくも霊妙しき暴力を!
汝ゆゑに、わが思惟もわが行為も、畢竟、
ひとつだに瀆神ごとに帰せざるなし。
闇の天使よ、小やみなく翼を駆りて、
ゆめ好機を逸せずおそひ来る者よ!
伶楽のとよめば、銀の音色をなれは
熾んなる業火と転じ、妒ぶかき
なが心柢は、欲求の折檻しらぬ
何如やうの怡悦をも認めむとはせず。
汝を介して、嫺雅の詩女神も、あはれ、
復讎女神に豹変すとは、仇敵よ!
しかして美なる物象ぞみな、姦邪悪趣の
陶酔の焰をあげて火ゆるなる。
なれ故に、烏羽玉の夜の夢みの郷も
畏怖あまた群れつどふ地と化り、はては、
苛虐れぬる微睡が、ひと頻りなる
いたづらの涙と観ぜらるる也。
陽光が暉きを花叢にひろげゆく際、
をどる海に黄金色のひだ做るとき、
勢猛の軍団を率ゐて、汝は
このわれをとり囲み、途惑はす也。
秋の樹立のいぶきなす央を、さては
冬枯れの静寂の領れる只中を、
なが瘴毒は飛び歩きたち罩むらくも、
あなあはれ、不敬淫靡の道のもの!
赤き焰の狂熱は汝が有にこそ、
鋼なす冷腸もこれ亦しかり。
なんぢ也けり、正無けき細工を以て
自然の正しき意匠そこなふは。
灰の林檎は黄金かと輝きづれば、
甘い哉、死海のにがき水とても。
噫けがらはしき悦楽の饗の蓆や、
なれ、闇の聖霊が手に張られたる!
薄やみぬちの密語よ、はた仄めかす
声、あるは耳にとどまる哄笑よ、
わが墳墓の装飾師よ、わが墓碑の上に
銘すべき誄詞つくる者よ、汝。
聖なる御名において我は、なれと闘ふ!
さるを、汝が行ふは神ぞ宣らすこと――
嘗試くものよ、蓋しなが焰をのがれ得なば、そは、
汝にこそたましひ救はれたるなれ、死より。
即ち第二の死*より、時劫は氓ぶとも、ゆめ
氓びざる、ほろび得べからざる死より。
即ち生きながらの死より、そが中にして
尽未来慰めもなく失道の霊等叫喚す。
闇の天使よ、情欲のうづける汝の
齎らすは、ふたつの挫折、二つの絶望――
怕ろしさとていかほどぞ、浮游よふ塵と
なるも、汝が永遠の苛責に方ぶれば。
なんぢの意志するところをなせ、能ふまじきぞ、
闇天使! われを打敗さむとても。
ひとり赴く、われは孤りなる者が許へと**、
聖にしてわれは聖なる者がもとへと。
The Dark Angel by Lionel Johnson
http://www.theotherpages.org/poems/johns01.html#7
* 第一の死は、霊魂をその意に反して肉体より引き離し、
第二の死は、霊魂をその意に反して肉体の衷に留め置く。
換言するに第二の死は、即ち、尽未来際まで続く刑罰也。
アウグスティヌス『神の国』第二十一巻第三章
**神々および聖なる幸はへる人々の生活、そは浮世
の快楽を伴はざる生活にして、且つは孤りなる者の、お
なじく孤りなる者が許への遁竄也。
プローティノス『エネアデス』
第六文集第九論文「善なるもの、一なるもの」