ラヴクラフトとハッセ


 ヘンリー・ハッセ(ハーセ)のクトゥールー神話作品「探綺書房(本を守護するもの)」は、『ウィアード・テールズ』の一九三七年三月号に掲載された。ラヴクラフトが亡くなったのは同年の三月十五日だった。一見、両者のあいだには不幸な擦れちがいが生じてしまったかのようだが、月刊誌の実際の発売時期を考慮すべきで、ラヴクラフトの一九三七年二月八日附カットナー宛書翰は次のように結ばれている。

 「いまWT三月号をざっと流し読みしたところ、ピアース、ハッセ、そしてルートヴィッヒ・プリンの作が賞を獲得しそうに見えます」

 (アール・)ピアースの「最後の弓手」、ハッセの「探綺書房(本を守護するもの)」、ブロックの「猫神ブバスティス(ブバスティスの子ら)」の三作のことである。『新編 真ク・リトル・リトル神話体系 2』(国書刊行会)の解説で那智史郎氏が不思議がっておられるように、ハッセとラヴクラフト・サークルとの関わりについては詳細が不明なのだが、少なくともラヴクラフトは確かに「探綺書房」を読んでおり、しかも高く評価していたのであった。
 ちなみにWT掲載時、本作品はヴァージル・フィンレイ描く挿絵に飾られていた。